東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)57号 判決
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〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三十三年十一月二十一日、名称を「自動調心軸承」(後に「自動調心軸承の製造方法」と訂正)とする発明につき特許出願をしたところ、昭和三十六年一月二十五日、拒絶査定を受けたので、同年三月二日、これに対する抗告審判を請求し、昭和三六年抗告審判第五七二号事件として審理された。原告は、昭和四十一年七月一日、西垣稔に対し右特許を受ける権利を譲渡し、その旨の届出をし、本願については、昭和四十三年一月二十四日出願公告されたが、株式会社不二越より特許異議の申立があつた結果、昭和四十四年四月二十三日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年五月十五日、西垣稔に送達された。原告は、同年六月十日、西垣稔から、特許を受ける権利を譲り受け、同月十一日、その旨を特許庁長官に届け出た。
二 本願発明の要旨
強靱な弾性を有する短円筒状の金属よりなる外側環状体の両側から挾圧して長円形に変形させ長軸内に球面座軸承を直交して嵌入し外力を取り去つて外側環状体を原円形に復元させ球欠ぎを設けないで自動調心を構成するようにした軸承の製造方法。
三 本件審決理由の要点
本願発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、ドイツ特許第九二二、五五九号明細書および図面(以下「引用例」という。)には、弾性のある合成樹脂製の外環を橢円形に圧縮し、これによつて、内環は外環に対し九〇度だけ偏位した軸線方向をもつて外環の中へ装入できるようにした自動調心軸承についての記載がある。本願発明と引用例のものを対比するに、自動調心軸承において、外側環状体の両側から挾圧し右環状体が長円形に変形したとき長軸内に球面座軸承を直交して嵌入し、外力を取り去つて外側環状体を原円形に復元させるという点では両者は一致し、ただ、本願発明では外側環状体を強靱な弾性を有する金属としているのに対し、引用例のものはこれを弾性のある合成樹脂とした点で相違している。しかし、軸承部材を金属で作ることや金属が弾性を有することは従来周知であるから、右相違点である材料の選択は使用目的に応じ任意にできると認められ、したがつて、前記のように外側環状体の材料を相違させることは、発明とはいえないから、本願発明は、全体として、引用例に記載されたものから当該技術者の容易に推考実施しうる程度のものであり、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第一条に規定する特許要件を具備しないものである。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、以下に説示するとおり、本願発明と引用例との相違点に関する判断を誤り、ひいて、本願発明をもつて引用例の記載事項から当業者が容易にできる程度のものであるとした点において判断を誤つたものであり、その点において、違法たるを免れないものといわざるをえない。すなわち、引用例の技術内容が本件審決認定のとおりであること、および本願発明と引用例のものとは、本件審決認定のとおり、自動調心軸承において外側環状体の両側から挾圧し環状体が長円形に変形したとき長軸内に球面座軸承を直交して嵌入し外力を取り去つて外側環状体を原円形に復元させるという点で一致し、ただ、本願発明においては外側環状体を強靱な弾性を有する金属としているに対し、引用例記載のものは弾性のある合成樹脂とした点で相違していることは、原告の認めて争わないところであるところ、本件審決は、(イ)軸承部材を金属で作ること、および(ロ)金属が弾性を有することが従来周知であつた事実を挙げて、本願発明における材料の選択は、使用目的に応じ容易にできるものというべく、その点に発明は認められないとしているが(本願発明は、材料の選択の点のみに発明が存在するものではなく、前に本願発明の要旨として掲記したすべての技術内容に発明の存することは、その発明の要旨に徴しいうまでもないことである。)、右(イ)および(ロ)の事実が周知であつたとしても、そのことから直ちに、本願発明における材料の選択をもつて、使用目的に応じ当業者の任意にできる程度のものであると断ずることはできない。けだし、本願発明の特許公報によれば、本願出願当時自動調心軸承の部材全部を金属で構成したものは在存したが、その内輪、外輪および外側環状体等の金属材料としては、主としてクローム鋼およびカーボン鋼が使用され、軸承の回転および基本負荷容量に耐える必要条件から、いずれも相当の厚みを有する鋼材が切削加工によつて軸承の各部分として作成されており、相当の厚みを有するこれら金属鋼材から撓みや弾性変形等の構想は全く出て来なかつたので、外側環状体は、その内側球面壁の片側相対向部に軸承装入用の球欠ぎを二個刻設するのが通例であつたが、本願発明においては、外側環状体を構成する金属として、特殊な高温熱処理加工を施すことにより高度の靱性と強力な弾性とを与えたクローム軸承鋼、バネ鋼、炭素鋼等を使用し、その結果、この外側環状体は、両側より挾圧して長円形に変形しても圧壊することなく、軸承嵌入後圧力を去ると、みずからの復元力により原円形に復元するため、ここにはじめて球欠ぎを設けない自動調心軸承の製作が可能となつた事実を認めうべく(これを左右すべき証拠はない。)、この事実によれば、本願発明において、その目的に合う強靱な弾性を有する金属を使用することをその構成の要件の一としたことには、十分な技術的意義を有したものとみるを相当とするからである。被告は、この点に関し、本願出願当時、外側環状体を長円形に変形しても圧壊することなく、長円形の変形から原円形への復元が可能な性質を有する金属材料は周知であつた事実から本件審決の判断の正当性を理由づけようとするもののようであるが、自動調心軸承として被告主張の性質を有する金属材料が用いられた事実および金属材料で構成した外側環状体につき、これを長円形に変形して球面座軸承を直交嵌入し、外力を去つて原円形に復元するという特性をもつた自動調心軸承が本願出願当時周知であつた事実は、いずれもこれを肯認すべき何らの資料はない本件において、単に、いわば観念的に、そのような性質の金属の存在することが知られていたからといつて、そのことから、直ちに、本願発明における金属の選択をもつて、当業者の適宜選択の範囲を出ないものとすることは、当を得たことではない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)